女台詞
 

「女房」
そんなこと決まってるじゃないか。お前さんに愛想尽かして出ていったんだよ。
毎日毎日、働きもしないで、バクチばっかりして、負けてかえって来ちゃ、あたしに八つ当たりして、ぶっ
たり蹴ったりするだろう。そりゃあたしはそんな事なれてるから構やしないけど、あの娘だって十七だよ。
着物一つ、前掛け一つ、買ってやらないじゃないか。おとなしい娘だから黙って我慢してるけど、本当は人
並みの格好がしたいのが人情じゃないか。
あたしゃ、どれ程あの娘にすまないと思っているか。それもこれも、お前さんがバクチばっかりやってるか
らだよ。あたしのお腹を痛めた子じゃないけど、あたしゃ、もしもあの娘になにかったら...あたしゃ、生き
ちゃいないからね!

 

「女将」
ああ、駄目だよ! この娘はうちで預かっておくよ。
なぁに、預かるったって、何も心配することはないんだよ。
見世には出さないで返してあげるから。余計な心配をおしでないよ。うちへはいろんなお師匠さんが見える
から、生花や茶の湯、何でも一通りのことは習わせてあげるから。あと、あたしの身の回りの事をやっても
らって、...こういう優しい娘に、あたしもそばで用を足して貰いたいんだよ。
そのかわり親方、大晦日を一日でも過ぎると、あたしも鬼になるよ。...いいかい?
この娘を見世へ出すよ。客を取らせるよ。...客だっていい客もいれば悪い客だっている。こんなか細い娘だ
から、悪い病気を引き受けて不具者
か た わ
にならないものでもないが、その時になってあたしを恨んでもらっちゃ
困るよ。ね、それが可哀想だと思ったら、来年の大晦日までに、きちんと返しておくれ。いいね。

 

「お久」
おとっつあん。あたし、バクチをしているおとっつあんが嫌いです。大嫌いです。
勝つか負けるか、それだけが世界のように思う、そんなの嫌です。どんなに貧乏だって私は平気です。でも
貧乏に負けるのは嫌。心まで貧しくなったら何にもなくなってしまう。おっかさんは、おとっつあんのバク
チのお金をつくるのに、持っている着物も帯も、一本しかないかんざしまで、みんな質に入れて流してしま
った。でも、箪笥の一番奥の所に、何か大事そうに包んであるものがあった。...それは、あたしが小さい頃
遊んだ人形、風車、履き古した駒下駄、小さな足袋。みんなとってあった。
その時、ふと思ったの、訳も分からず感じたの。今の命の前に、命よりはかない出会いだったかもしれない
し、もっと強い結びつきだったかもしれない。あたしはおっかさんに、どこかで会ってるって確かに感じた
の。そのおっかさんに黙って、初めて黙って家を出て、もう帰らないつもりでいました。どんな事でも話し
合っていたのに、一番大事な事を相談もせずにやってしまったのが、すまなくて。もう許して貰えないかも
しれないけど、謝りたいの。
ねえ、おっかさんは?おっかさんはどこ?

 

「遊女」
おかみさん、どうか、どうか許しておくんなまし。あちきは、もうあの人のことしか...
遊郭の女郎に許されないことだとは重々わかっていても...
どんなに条件の良い身請け話だとしても、そのお話はお断りしてほしいのです(泣き)
あちきは年季が明けたらあの人の所へ行くと誓い合ったんです...(泣き)