男台詞
 

「長兵衛」
俺は左官の職人で、ちょいと魔がさして始めたバクチに打ち込んでよ、にっちもさっちもいかねえ程、借
金だらけになっちまった。
毎日ヤケのやんぱちで暮らしてるってえと、俺の一人娘で今年十七になるお久てえのが、吉原の佐野槌と
いう女郎屋に身を売って金をこしらえてくれた。...その女郎屋の女将さんてのが情けぶけえ人で、来年の大
晦日までに金を返せば、娘は見世へも出さず、そのまんま返してくれるが、大晦日を一日でも過ぎると、お
久は見世へ出されるんだよ!
客を取らされるんだよ。
おめえにこの五十両やっちまうと、返さなきゃならねえ借金と合わせると都合、百両になる。百両となる
と俺にはちいっと荷が勝ちすぎて、来年はおろか、いつ返せるかわからねえ。
でもよ、お久は見世へ出されたって死ぬ訳じゃねえ、おめえは金がねえと死ぬってえからやるんだ。
「文七」
(長兵衛から五十両の金をぶつけるようにして渡され、長兵衛は走り去って行った)
おお痛い。あんな汚いなりをしてやがって五十両なんて持ってる訳があるかい。畜生。
引っ込みがつかなくなったもんだから石っころかなんか入れてぶつけやがったんだ。
おお痛い。こんなもの、なんだい! う?(財布を開けて中身を確かめる、本当に 50 両入っている)
あっ、もし!もし!親方!親方!
ああっ、何ということを......ありがとうございます。ありがとう存じます。
「久助」
お前、今日昼過ぎに水戸様の掛け金を頂きに行き、五十両の金を受け取ってから帰り際、柴田様と斉藤様
が碁を打っているのを後ろに立って見ていたそうじゃないか。
(文七 はい。)
そのうち斉藤様が用事でお帰りになり、かわりにどうだお前と言われて柴田様の碁のお相手をしたそう
じゃないか。
(文七 はい。二番ほどやらせていただきました。)
うん。そのあとで柴田様が、「おい文七、遅くなりはしないのか」と言ったそうじゃないか。その時お前
あわてて席を立って帰ってきたろう。どうしてお前はそんなに碁が好きなんだ。
...あとで碁盤を片づけていたら財布が出てきた。
(文七 え! わ、わたくし財布を忘れてきたんでございますか?)
そうだよ!文七が忘れていったうちの掛け金だってんで、お前が頂いた五十両はもう、うちに届いているん
だよ。
「卯兵衛」
何を言ってるんだかさっぱり分からない。文七、落ちついて聞きなさい。お前が水戸様から頂いた五十両は
もう届いているんだ。お前が持ってきたこのお金はどこから出てきたか、それを聞いているんだよ。
(文七 ですから、この五十両は、貰ったんです。)
貰ったって? 五十両を貰ったのか? 番頭さん、文七はどうかしてます。何か訳がありそうだから、お前
さんからよく聞いておくれ。